福岡地方裁判所 昭和33年(行)30号 判決 1960年2月12日
原告 横山恒登
被告 八女市 外七名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「訴外八女財産組合と訴外株式会社末金製材所、同角商店、同江田材木店、同草場製材店、角林業株式会社との間に昭和三一年一二月一九日なした福岡県八女郡矢部村矢部字山口上五、五八一番地所在、山林一反歩の売買契約の無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として「被告等は地方自治法にもとずく一部事務組合として、訴外八女財産組合を組織し、同組合議会の議員は被告等市町村の長及び議員によつて構成されていたが、右組合解散後は被告等において右組合の残務を処理しているものである。ところで、原告は右訴外八女財産組合の存続していた当時から、同組合を組織する一地方公共団体である八女市の住民であるが右訴外八女財産組合は昭和三一年一二月一九日に訴外株式会社末金製材所、同角商店、同江田材木店、同草場製材店、角林業株式会社(以下訴外会社等と略称する。)に右組合所有の財産である福岡県八女郡矢部村字山口上五、五八一番地所在の山林一反歩(以下本件山林と略称する。)を売却した。しかしながらこの売却行為は無効である。なぜなら、この売却行為は昭和三〇年一二月一七日開かれた訴外八女財産組合議会の議決にもとずきなされているがこの議決は違法になされたからである。その理由は右訴外八女財産組合の財産の売却は競争入札に付したうえで、その最高価入札者になすべきであるのに、右議決は最高価入札者である訴外田中軍太に対してではなく前記訴外会社等に売渡すことを内容としたものである。しかも、その議事には前記訴外株式会社末金製材所の代表者である末金春一が同議会の議員として参与している。従つて、右議決は前記訴外会社等の利益を図る目的でなされた違法なものであるから、これに基く売却行為も無効なものと言わざるを得ない。なお右訴外八女財産組合の組合長は同組合財産の処分について同組合を組織する関係市町村の承認を得ていない。よつて原告は右訴外八女財産組合を組織していた八女市の一住民として利益を害されているので本訴に及んだ次第であると述べた。
被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として「原告の主張事実のうち、訴外八女財産組合が地方自治法にもとずく一部事務組合として被告等によつて組織されたこと、同組合議会の議員は被告等市町村の長及び議員によつて構成されておること、同組合は昭和三三年三月三一日付解散したこと、同組合議会が昭和三一年一二月一七日「組合財産の処分について」と題する議案によつて、原告が主張する山林一筆を売却する内容の議決をなし、これにもとずき同組合の組合長により払下げ売却されたことは認めるが、原告主張のような者に売却したものではなく右議決は<共>代表と称する法人でも組合でもない個人の訴外角武男、草場貞爾に売渡すことを内容とするもので、右議決に参与した同組合議会の議員末金春一とは何等の関係もない。なお、原告が右議決及びこれに基く組合長の払下行為のあつた当時八女市の住民であつたことは認める。その余の事実は全部否認する。原告主張の訴外八女財産組合がなした売却行為は全く平等の立場において締結された私法上の売買契約であり民法の適用を受けるからその無効を争う訴は民事訴訟法の手続によるべきであるのに、原告が本件売却処分を行政行為として、その無効を求める本訴は失当である。又、地方公共団体の住民は単に住民であるという資格のみで本件のように組合財産の売却処分について、その団体の長の行為の適法性を争いその無効の確認の裁判を求める法律上の利益を有しない。しかも訴外八女財産組合の議決及びこれに基く同組合長の売却行為は適法になされたものであり、いずれの点よりするも原告の本訴請求は失当である」と述べた。
(証拠省略)
理由
訴外八女財産組合は地方自治法にもとずく一部事務組合として被告等によつて組織され、組合議会の議員は被告等市町村の長及び議員によつて構成されているものであるが、右組合議会は原告主張の日本件山林を売却する内容の議決をなし、これに基いて同組合の組合長は本件山林を売却したことは当事者間に争がない。
ところで原告は本訴において地方自治法にもとずく一部事務組合である訴外八女財産組合の一地区である八女市の住民であつたということから、同組合と訴外会社等との間になされた同組合所有の山林の売買契約が無効であることの確認を求めているものであるが、原告主張の訴外八女財産組合の本件山林売渡行為は、地方公共団体が優越的地位において公権力の発動として相手方その他の利害関係人を拘束する意味をもつ行為としてなす作用、即ち行政処分たる性質を持つものではなく、民法上の売買である私法行為と解すべきであるところ、原告が本訴において利害関係ありとして主張するところは同人が訴外八女財産を組織する一公共団体である八女市の住民であるというにすぎないから、原告は訴外八女財産組合と第三者との間においてなされた本件山林売買契約の有効性を争うに足る具体的な法律上の利益を有しないものというべく、原告の本訴請求はこの点においてすでに失当である。
なお附言すれば、原告が地方自治法第二四三条の二第四項に基き本訴請求をなす趣旨としても、同法条により求めうる事項は監査委員が監査の結果地方公共団体の長に措置を求めることができる権限ある事項でなければならないと解すべきところ、監査委員の監査の対象となる事項は地方公共団体の長以下の執行機関の行為の適否に限られており、議会の議決自体の当否には及ばないのであるから、訴外八女財産組合の本件山林売渡についての議決に基く執行行為としての本件山林売買契約それ自体について違法な瑕疵があればともかく、その契約の基礎となつている議会の議決自体の当否を監査の対象とすることは監査委員の権限に属しないものと言わなければならない。ところで原告の主張するところは専ら訴外八女財産組合の本件山林売渡についての議決それ自体の違法であつて、これに基く執行としての本件山林売買契約の違法ではないから、結局右議決の違法を前提とする原告の本訴請求はこの点においてすでに失当である。
よつて、原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 鍛冶四郎 唐松寛 杉島広利)